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第64話
真ん中にある八人がけのダイニングテーブルには花も飾られている。その一番端の席にできたてのワッフルと数種類のフルーツ、サラダ、目玉焼きにベーコン、紅茶にヨーグルトなどが並んでいた。朝から豪華なメニューだ。
「仕事があるので、私は社に戻らせていただきます。お昼はケータリングで何か運ばせますね」
エプロンを外しながら忙しそうに言う。
「あ、いや。あの俺、自分のことは自分でできるんで。それに、食事も買い物の許可がもらえたら作れるんで。そうしたら放っておいてもらって大丈夫です」
「そうですか」
「ええ。何もしてないと落ち着かないし。あ、この家の掃除とかもしますので」
「それはハウスクリーニングが定期的に入るので大丈夫です」
真面目そうな秘書は、穏やかに微笑んで言った。
「では、食事についてはそのように社長に報告しておきますね。今日の昼食だけは運ばせますから」
「はい。よろしくお願いします」
鷺沼が帰ってしまうと、家の中はまた陽斗ひとりになった。
テーブルに載ったワッフルのいい匂いに、腹がクゥと鳴る。そういえば昨夜は夕食抜きで何時間も高梨の相手をした。行為の後は泥のように朝まで眠ってしまったし、気づけばものすごく空腹だ。陽斗はテーブルにつくと、朝食を残らず平らげた。
「高梨さんは、夕食と朝食、食べたのかな」
最後に紅茶を飲みながら独りごちる。きっとひとりですませたのだろうが、もしかしたら陽斗が目を覚ますのを待っていたという可能性もある。そうだとしたら悪いことをした。
朝も暗いうちから仕事に出かけたようだし、彼はずいぶんと慌ただしい生活を送っている。なのに陽斗には、ちゃんと朝食と昼食の手配をしてくれていた。泊まった客室もきれいに設えられていたし、何より、あの椅子はきっと陽斗の治療のために特別に用意したものなのだろう。
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