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第65話

「……」  紅茶のカップを手にしながら、頬が熱くなるのを覚えた。 「……変わった人だなぁ」  運命の番かどうかもまだ定かではないのに、こんなにも色々と手をかけてくれるなんて。  不思議な男性だった。出会った瞬間から、あの銀の瞳には陽斗に対する愛情が満ちていた。揺るぎない自信を持って、プロポーズもしてきた。  そんなことが、あり得るのだろうか。運命の絆はそれほど確信的なものなのか。陽斗自身はまだ、確証が持てなくて心が揺れているというのに。  もしも契約期間中に陽斗が発情しなかったら。発情したとしてもフェロモン型が万が一にでも一致しなかったら。  あの人はどうするんだろう。やはり陽斗をヤリ捨てるのだろうか。 「そうだろうな。だってそれが契約なんだし」  だったらせめて一ヶ月の間は、彼のためにも、自分のためにも努力してみよう。陽斗はそう考えた。  食事を終えると、片付けをして部屋に戻る。  アルバイトは一ヶ月間休みにして欲しいと昨日連絡を入れていたので、思いがけずできてしまった暇な時間に、陽斗は持ってきたトリミングの本を読んで勉強することにした。就けるかどうかわからない職業ではあったけれど、やっぱり夢は捨てたくない。  正午までそうやってすごし、配達員が届けてくれた一流料亭の豪華な松花堂弁当で昼食にした後、台所で容器を洗う。アイランドのある広いキッチンの大型冷蔵庫をあけると中には食材がいくつか入っていた。高梨は簡単な料理はしているようだ。 「勝手に使っちゃまずいよな。けど、外に出てはいけないって契約だし」  しかし夕食はどうしよう。高梨は家で食べるのか、それとも外食するのか。本人にたずねてみようとスマホを取り出して、連絡先を交換していないことを思い出した。  仕方なく、先日『イイね』をおしたSNSをひらき、『夕飯とかどうしてるんですか?』と、他人が見たら明らかに意味不明なコメントを打ちこむ。

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