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第66話
すると数分たたずに家の電話が鳴った。多分、高梨だろうと予想して電話に出る。
『夕食は、一緒に食べに出かけようと思ってたんだ』
といきなり相手が喋りだす。やはり高梨だった。彼の背後がうるさい。仕事場からかけてきたらしい。
「俺、作りましょうか? 冷蔵庫のもの使っていいなら」
『本当に?』
弾んだ声がする。
『君の手作りが食べられるのなら、僕は嬉しくて地球一周しちゃうよ?』
「なら、一周してから帰ってきてください。適当に作っていいですか? セレブ向けの料理じゃないけど」
『いいよ。家庭料理は生まれてから一度も食べたことがない。任せる。――あ、じゃあ、七時には絶対に帰るから』
周囲を気にする気配で、高梨はすぐに電話を切った。
「家庭料理は食べたことがないって……」
そうか。母親がいなくて、家族も父親だけだとしたらそうなってしまうか。金は唸るほどあるのだろうから、毎日だってレストランや料亭にはいけるだろうが誰かの手料理には無縁になるかもしれない。
「家政婦とかもいなさそうだしな、この家」
陽斗は冷蔵庫や棚を見て、使えそうなものを探し出した。
「うわ。めっちゃ高いコメじゃん。こっちの外国製の缶詰は何が入ってるんだ? ラベルも英語じゃないみたいだし。ネットで調べなきゃわかんないよ」
ストックしてあるものも、凪野家の台所とはまったく違う。陽斗はなじみのない食材に頭をひねりながら、午後の大半を使って夕食の準備をした。
午後七時五分前、玄関の方角から扉をしめる音がして、高梨の帰宅をしらせる。陽斗はキッチンから廊下へと出た。
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