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第67話

「おかえりなさいー」  いつも光斗を出迎えるように声をかける。すると廊下を歩いてきた高梨が目をみはった。 「自分の家じゃないみたいだ」 「何で」 「家族のような人がいる」 「意味不」 「しかも嗅いだことのない匂いがするよ」 「適当に作ったんですけど。まあ、食えるものだと思うから。心配しないで」  陽斗は肩を小さくすくめて、ダイニングへと向かった。その後をついてきた高梨が、八人がけのダイニングテーブルの端に用意されたふたり分の夕食を見つけて、顔をほころばせる。 「素晴らしいな」 「手洗ってうがいしてくださいね」 「何もかもが、感動的だ」 「その間に準備しときます」  胸に手をあててウットリとしている高梨をおいて、陽斗は台所に戻り、料理の仕あげをした。  今夜のメニューは、高級牛ヒレ肉ステーキのバルサミコソースがけ、オニオンスープ、コーンとビーンズとオリーブのサラダにライス。牛肉は冷凍室にあったものを使わせてもらった。おかげで豪華なメニューとなった。  ダイニングに戻ると、高梨がワインをあけてくれる。それでふたりで乾杯した。 「じゃあ、いただきます」  中々お目にかかれない高級肉にワクワクしつつ、向かい席の高梨が先に食べるのを待ってから陽斗も手をつけた。 「どうですか?」  自分的にはうまく作れたつもりだ。牛肉は素晴らしく口あたりがよく、ソースの味も丁度いい。  高梨は料理を一口食べて、しかし急に、顔を曇らせて「まずい」と言った。

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