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第68話
「え? まずい?」
口にあわなかったのか。あせる陽斗に、高梨は急いだ様子で脇においていたスマホを手に取った。
「写真を撮るのを忘れた」
「……なんだよ。女子高生かよ」
「君の記念すべき最初の料理を撮り逃すなんて。僕もずいぶんテンパっている」
高梨はナイフとフォークの位置を調整してから、写真を何枚かカメラに収めた。そうして改めて料理に向き直る。
「すごく美味しいよ。陽斗君。君がとても繊細に心をこめて作ってくれたのがよくわかる。焼き加減も味つけも」
「そりゃあ、手にしたことのない高級な牛肉でしたから。細心の注意を払ったに決まってます。失敗したら大変なことになるし」
「僕への愛情が感じられるね」
「どっちかって言うと、肉への愛情です」
高梨はほんのちょっと笑顔を固めて、しかしすぐに嬉しそうにまたフォークとナイフを動かした。
「ていうか」
陽斗も香りのいいコシヒカリを頬張って、舌鼓を打ちつつたずねる。
「高梨さんはさ。……俺のこと、なんで、そんなに好きなんですか」
気恥ずかしいことを口にしているのはわかっている。だから俯いて、肉を切りつつ、和やかな流れに任せてさりげなくたずねた。初めて会ってから数日。ずっと心に引っかかっていたことだった。
「アルファとオメガが惹かれあうのは、フェロモンに性欲を誘発されるためで、ただそれだけだったらヤリたいだけの関係でしょう。もちろんそれが究極の種の保存形態であるバース性の本質だから、仕方ないってのは理解してる。けど、そこには人格とか、そういう相手の内面を思いやる部分はない。でも高梨さんは、最初にあったときから、俺のこと手放しで好きって言ってきた。……フェロモンも出てないのに、俺のこと何にも知らないくせに。まるでバース性とは関係なく、俺っていう人間に惚れたみたいに。……それはなぜなんですか」
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