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第70話
「僕のフェロモン型は、レア・アルファのせいで特別でね。マッチング候補は、年齢も考慮すると世界中に十七人しかいなかった。そのすべての人物を、僕は直接確認しにいったんだが、あんな衝撃を受けたのは初めてだった。それで、もしかして、君が、僕の運命の相手なんじゃないかって、考えるようになった」
陽斗は、高梨に出会った夜のことを思い出した。
そうだ、たしかに自分も彼を見て、身体が痺れるような感覚に襲われたのだ。
「けれど僕は、すぐ君にプロポーズしにはいかなかった。というか、いけなかったんだ。立場上、番候補がどんな人物なのか詳しく知る必要があったから。高梨グループは大きな会社で、それを父から譲り受けた責任が僕にはある。従業員も三千人以上抱えているから、欲望に任せて不用意な行動を取ることはできない。君がもし、候補としてふさわしくないのなら、コンタクトは取らずに諦めなければならないと考えていた。そのときは、一生、父のように番なしで生きていかねばならないという覚悟もあった」
陽斗は目をみはった。
「……そんな」
「自分のことよりもまず会社と高梨家のこと。それが父の遺言だったから」
高梨がグラスを手に続きを語る。
「半年間、僕は君のことを調べて、時折遠くから眺めにいったりした。僕の番はどんな子なのか、よく知りたかったから」
「それで半年間、ストーカーを?」
「見守り隊だよ」
高梨が微笑む。陽斗を見守るのはとても楽しいつとめだったとでもいうかのように。
「僕の持つネットーワークを駆使して、君の生活をリサーチした。ずいぶん深くまで調べさせてもらった。仕事先での働きっぷり、人間関係、毎日の買い物の中身まで」
「ええっ……。それもうプライバシーの侵害でしょう」
「ごめんね。嫁にもらう相手の素行調査として仕方なかったんだ」
「……嫁とか」
ちょっと顔が赤くなる。いや、そんな言葉で惑わされてはいけない。
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