72 / 158

第72話

「彼女の家を辞した後、トラックに向かうと、君は意気消沈していた部下に、優しく笑って話しかけていただろう?」 「ああ、はい」  落ちこむなよ、誰にでも失敗はあると励ましていたはずだ。 「あれを見て、僕は、実は――激しく動揺した」 「え?」  顔をあげると、高梨は片頬をあげて苦い笑顔を作っている。 「失敗をして社に迷惑をかけた部下に笑いかけるなんて、上司としてあり得ないと思ったからだ」 「……そ、そか」  自分の対応は、社会人として甘かったか。 「僕だったら、きっと、きつく叱咤して原因を突きつめ、どのように反省して今後の仕事にどう向きあっていくのか、詳細に報告させただろう」 「……まあ、高梨さんはCEOでもあるんだから。それぐらいはするでしょうけど」 「いや。そういう問題じゃない」  高橋が首を振る。 「僕は生まれついてのレア・アルファで、だから普通の人間よりも労せずして物事をこなすことができる。そのせいで、他の人間、特に部下に対して非常に厳しい態度をずっと取ってきていた。悪い言い方をすれば、見下していたんだな。失敗を犯した者にはペナルティを与えて叱咤し、ついてこられない者は切り捨てる。それがあたり前だった。父もそうだったから」  陽斗は黙って頷いた。 「だから、僕の社での評判は最悪だった。人非人、冷酷、利益優先のロボットなどと陰口を叩かれていた。見た目も人間離れしているから怖がる人も多かった」  そう言って微笑を浮かべる男は、陽斗の目には魅力的に映る。しかしこの整いすぎた容姿で怒られたら、さぞかし迫力があるだろうとも考えた。

ともだちにシェアしよう!