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第72話
「彼女の家を辞した後、トラックに向かうと、君は意気消沈していた部下に、優しく笑って話しかけていただろう?」
「ああ、はい」
落ちこむなよ、誰にでも失敗はあると励ましていたはずだ。
「あれを見て、僕は、実は――激しく動揺した」
「え?」
顔をあげると、高梨は片頬をあげて苦い笑顔を作っている。
「失敗をして社に迷惑をかけた部下に笑いかけるなんて、上司としてあり得ないと思ったからだ」
「……そ、そか」
自分の対応は、社会人として甘かったか。
「僕だったら、きっと、きつく叱咤して原因を突きつめ、どのように反省して今後の仕事にどう向きあっていくのか、詳細に報告させただろう」
「……まあ、高梨さんはCEOでもあるんだから。それぐらいはするでしょうけど」
「いや。そういう問題じゃない」
高橋が首を振る。
「僕は生まれついてのレア・アルファで、だから普通の人間よりも労せずして物事をこなすことができる。そのせいで、他の人間、特に部下に対して非常に厳しい態度をずっと取ってきていた。悪い言い方をすれば、見下していたんだな。失敗を犯した者にはペナルティを与えて叱咤し、ついてこられない者は切り捨てる。それがあたり前だった。父もそうだったから」
陽斗は黙って頷いた。
「だから、僕の社での評判は最悪だった。人非人、冷酷、利益優先のロボットなどと陰口を叩かれていた。見た目も人間離れしているから怖がる人も多かった」
そう言って微笑を浮かべる男は、陽斗の目には魅力的に映る。しかしこの整いすぎた容姿で怒られたら、さぞかし迫力があるだろうとも考えた。
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