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第74話

「俺、それ観ました。『獅士たちの道程』ってやつですよね」  陽斗がこの前、電車の中で視聴した番組だ。 「観てくれたんだ」  高梨が顔をほころばせて喜ぶ。 「うん。すごく格好よかったです。感動して電車を乗りすごすくらいだった」 「そんなに?」 「うん」 「だとしたらそれは、君のおかげだよ」 「え」 「君が僕に教えてくれたんだ」  心からの笑みは輝くばかりで、陽斗はこの人だって十分太陽みたいに笑えるじゃないかと切なく微笑んだ。  自分のやったことが、高梨に影響を与えていた。それがいい結果を生んで、視聴した自分もまた感動した。知らぬ間にできていたループに不思議な縁を覚える。運命のつながりとは、もしかしてこういったもののことを言うのかもしれない。だとしたら、自分たちは、やはり本当の『運命の番』なのだろうか――。 「あの番組の一件で、僕の社での評判も変わった。対外的にも非常に好印象を与えたらしく、その後もメディアからの取材が続いた。ホテル業界も今は厳しいからね。君のおかげでいい風が吹いてきた」  穏やかに微笑む相手からは、冷徹な印象はもう受けなかった。 「引越し屋のバイトが、ホテル業界のCEOに影響を与えることがあるなんて」  信じられない気持ちで呟くと、高梨が頷く。 「それはきっと、僕らが本当の『運命の番』だからだろう」  自分が考えていたことと同じ内容を口にする。  高梨はワインのグラスを手に、濃厚な葡萄酒を揺らした。  一口飲んで、静かに笑みを消す。そして真面目な顔になって話を続けた。

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