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第75話
「あれからずっと、僕は毎日、君のことを考えてすごしてきた。時間があるときは見守りにいったりもした。君のオメガ性についての詳しい報告がまだだったから、実際に話しかけることはできなかったけれど。でも、最初に会った夜、君は暴漢に襲われそうになっただろう。あれを助けにいこうとして、それで予定外に会話することになってしまった」
「そうだったんだ」
「あのとき、僕の態度はひどく不躾だったと思う。初対面なのに、君の個人的事情に踏みこみすぎて叱られた。……すまなかった」
「いえ。俺こそ、年上のあなたにあんな言葉遣いして、礼儀知らずでした」
「いいんだ。君は何も悪くない。僕が無礼だったんだ。君のことはずっと調べていたから、僕の中ではもうよく知る人物に育ってしまっていたんだよ。それに話をできた嬉しさもあって羽目を外してしまった。大人げないことだった」
高梨が反省するように目を伏せる。
「あの夜、君に拒否されて、家に帰ってからずっとどうやって関係を修復したらいいのかと悩んだ。嫌われたままでいるのは耐えられなくて、翌日すぐにプロポーズしにいった。頭の中からは君以外のすべてのことが抜け落ちてしまっていたよ。仕事のことも高梨家のことも。あんなことは初めてだった。だから、君こそが運命だと確信した」
高梨は自嘲するように笑った。
「これが、出会うまでの経緯だ。黙っていてすまない」
「……いいえ」
陽斗が首を振る。
話を聞けば、彼と初めて会ったときの態度にも納得がいった。そして最初からあんなに甘い眼差しだった訳も。
陽斗は目の前の人と不思議な縁で心が結ばれていくような気がして、手をとめたまま、美しいアルファに見入った。
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