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第94話
「なら、今度は長生きしそうな頑丈な犬を飼わないかい?」
「え?」
いきなり勧められて目をみひらく。
保護犬の紹介でもされるのかと思ったら、男は予想外のことを口にした。
「僕も主を失って、野良犬みたいな状態なんだ」
そう言ってニッコリと微笑む。セレブ感あふれる紳士の思いがけない提案に、陽斗はそれが『僕は君の犬になりたい』という意味だと気がついて、ボッと顔が赤くなった。
「な、な、何を……」
悪い冗談だ。貝殻がポトンとすまし汁に落ちる。
「君が僕の主になってくれたら、僕は君を守るために、もう一度生きる意味を得られる気がするよ」
過度な愛情表現に、返事もできずに目を丸くする。
そんな。レア・アルファが、機能不全の落伍者オメガの犬になりたいだなんて。
「…………」
何と答えていいものか、気の利いた返しのひとつもできなくて、陽斗は困り顔で汁椀に視線を落とした。
すごく嬉しい気持ちはあるけれど、今のところ発情の兆しはまったくないのだから、彼の期待には応えられない。
「ところで」
そんな陽斗の困惑をちゃんと読んだのか、高梨はさりげなく話題を変えた。
「光斗君から連絡はきたかい?」
「あ! そうだった」
高梨の言葉に、陽斗は今日ご馳走を用意した理由を思い出した。
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