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第96話

「わかった。じゃあやめておこう」  そしてふわりと陽斗を抱きしめてきた。 「うん。たくさん寝てください」  陽斗も相手の背中に手をそえる。 「……あのね」  高梨がため息のようなささやきをもらした。 「もしかして、君は、僕との行為を義務だとか、使命感だとか、そういったプレッシャーを感じているのかな?」  陽斗は高梨の腕の中で目をみはった。 「契約を必ず遂行しなければ、僕に悪いとか、考えている?」  図星をあてられて、とっさに答えることができなくなる。言葉を探して戸惑う陽斗に、高梨は優しい口調で続けた。 「君は責任感も強そうだし、光斗君のこともあるから恩も感じているんだろう。おいしい食事を作ってくれるのは、発情しない後ろめたさからかい?」 「違う」  陽斗は身をよじって、高梨の腕から離れようとした。 「じゃあなんで」 「それは……」  高梨が陽斗の両腕を掴んでくる。  じっとシルバーグレーの瞳で見つめられて、心の中を覗かれるような気持ちになる。どんなに隠しても、嘘のつけない場所に踏みこまれてしまう。  この人のことが好きだから。いつの間にか、すごく惹かれてしまっていたから。  眼差しが本心を明らかにする。 「君は素直だから、考えていることがすぐ顔に出る」  優秀なレア・アルファは、読心術にも長けているらしい。

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