99 / 158

第99話 ベッドの中で

◇◇◇  シャワーを浴びて、ジャージの寝間着に着替えて高梨の寝室を訪問する。ノックをして部屋に入ると、彼もスウェット地のルームウェアで待っていた。 「狭いベッドで申し訳ないね」 「構わないです。でも、この部屋はホント何もないですね」  ふたりでベッドに入り、ゴソゴソと寝心地のいい体勢を探しながら話をする。 「仕事で必要なものは書斎に運んでるから。それに僕は別に欲しいものもないし」 「そうなんですか。趣味とかは、ないんですか」 「ないね」  お互い向きあう形で横たわり、目をあわせた。 「僕は生まれたときから、持ちものはすべて父親が管理していたし、与えられるもの以外は持つことを許されなかったんだ」 「……そんな」  薄闇で目を見ひらく。 「日用品から勉強道具、靴下一足、消しゴム一個まで、父の選んだものを使っていた。僕自身に選択の自由はなかった」 「本当に? お小遣いは? 好きなものは買わなかったの? お菓子とか、玩具とか」 「小遣いはもらったことがない。必要なものは最高級の品を揃えられていたし、食べものも栄養管理されてキチンと与えられていた。玩具の類いは持ったことがない。ついでに言えば友人もいない。人間関係も彼に管理されていたから」 「そんな生活、信じられない。窮屈じゃなかったんですか」 「僕にとってはあたり前だったんだ。馴染みすぎてて疑問も持たなかった。幼い頃から後継者のレア・アルファとして、ふさわしい行動を取るように言い聞かされていたしね。父はいつも言っていた。お前は特別な人種で、普通人とは違う生き方をしなければならないと。だから、彼が突然病で死んだとき、次の指示がまったくなくなったことに呆然としたものだよ」

ともだちにシェアしよう!