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第100話

「……」 「独り立ちするには、支えが必要だった。何か、指針となるものが」 「うん」 「ずっとそれを探してるんだ」 「でもちゃんと、すごく立派に仕事をしてるじゃないですか」  高梨が吐息で微笑む。 「探すことが、支えになってたからね」  そう言って、陽斗の髪に触れてきた。短い黒髪をなでて、少しつまんで(もてあそ)ぶ。 「嫌われたくなかったんだよ。いつか出会うその指針となる人に」  高梨の指先は愛情に満ちている。陽斗は彼の求める人が誰かわかっていたから申し訳なくなってしまった。 「あの……」 「うん」 「俺、前に、高梨さんのデザインしたスイートルームに連れていってもらったじゃないですか」 「うん。そうだったね」 「あそこに泊まったとき、フェロモンがわずかに出てたって、高梨さんは言ってたけど、あれって、本当に出てたんですか?」 「出てたよ」  迷いなく肯定する。 「……どうしてなんだろ」  あのとき一度だけ、自分の身体に変化が訪れたのはなぜなのか。 「酒を飲んでたから? いやでも、ここにきてからも何度も飲んで寝てるし。高い場所だったから? 違うな。俺は高い場所あんまり好きじゃないし」  うーんと考えると、そんな陽斗を見つめつつ、高梨が提案した。

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