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第117話
ストーカー騒ぎはこれで一段落するようで、陽斗もずっと胸に抱えていた重荷がひとつおりて安心した。明日、光斗が津久井と番になり、渡米すれば二度とこんなことは起きないだろう。
そうしていたら鷺沼のスマホが鳴った。画面を確認して、鷺沼が申し訳なさそうに言う。
「すみません、急ぎの用事を放り出してきてしまったもので、戻らなければならなくなりました。おふたりで大丈夫でしょうか?」
「あ、はい」
忙しいところを、わざわざ光斗のために奔走してくれたらしい。
「もうしばらくしたら社長が帰宅されると思いますので」
「わかりました。本当にありがとうございます」
玄関先まで陽斗だけが鷺沼を見送りに出て、彼が去った後、厳重に施錠した。ストーカーはもうこないだろうが、用心に越したことはない。
リビングに戻ると、光斗が疲れた顔でぼんやりと部屋を見渡していた。
「光斗、何か、飲み物でも用意するか」
「うん、大丈夫。バッグにペットボトルあるから。……それより、このお屋敷すごいね。陽斗、ここで治療を受けてたの?」
「えっ。あ、ああ」
騒動で忘れていたが、光斗は治療のことを何も知らない。
「実は、まあ、話せば長いことなんだけど。その、治療の件で、世話になってるのが高梨さんで、この家の主人なんだ」
「その人が、陽斗のつきあってるアルファなの?」
「えっ。ち、違うよっ」
いきなり核心に触れられて、焦った陽斗は反射的に否定してしまった。
「え? 違うの? オレはそうだと思ってたんだけど」
光斗が傍らにおいていたバッグからペットボトルを取り出しながら言う。
「オレのことにしたって、ここまで世話をしてくれるのは、陽斗のことを大事にしてるからなんだと思ってた」
光斗の言葉に、陽斗はハッとさせられた。
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