118 / 158

第118話

 ――そうだ。もしも高梨が陽斗を大切に思っていなかったら。  ここまでのことをしてくれただろうか。 「……」  陽斗は瞳を伏せて、この一ヶ月のことを振り返った。  ――あの人はいつも優しかった。  思い遣りを持って自分に接してくれたし、嫌がることは決してしなかった。  イニシアチブは陽斗に持たせて、けれどたくさん、真摯に愛してくれた。  夜の行為だって、意地悪だったけれど、決して自分勝手なことはしなかった。そうして作ったご飯を美味しいと食べてくれて、犬にまでなりたいと言ってくれた。  十段階でどれほど好きかといつもたずねてきて、満点にまったく足りてなくても苦笑するだけだった。陽斗が返答に困る質問をしたときは、さりげなく話題を変えて、いつもふたりの間の空気を重苦しくしないよう心がけてくれた。  いつもいつだって、陽斗のことを考えて――。  「……そうだな」  なのに、自分は、そんな彼の気持ちをわかっていながらはぐらかし、きちんと向きあってはこなかった。  それは自分に発情がないせいもあったけれど、臆病で逃げの体勢でいたせいもある。  つまり、自分は卑怯者だったわけだ。   発情がこないまま、契約終了と共にこの家を出て、それで高梨はどう思うのか。  一度でも考えたことがあっただろうか。 「……俺、最低な奴だ」  自分のしてきたことを省みれば、どれだけ身勝手だったかよくわかる。

ともだちにシェアしよう!