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第118話
――そうだ。もしも高梨が陽斗を大切に思っていなかったら。
ここまでのことをしてくれただろうか。
「……」
陽斗は瞳を伏せて、この一ヶ月のことを振り返った。
――あの人はいつも優しかった。
思い遣りを持って自分に接してくれたし、嫌がることは決してしなかった。
イニシアチブは陽斗に持たせて、けれどたくさん、真摯に愛してくれた。
夜の行為だって、意地悪だったけれど、決して自分勝手なことはしなかった。そうして作ったご飯を美味しいと食べてくれて、犬にまでなりたいと言ってくれた。
十段階でどれほど好きかといつもたずねてきて、満点にまったく足りてなくても苦笑するだけだった。陽斗が返答に困る質問をしたときは、さりげなく話題を変えて、いつもふたりの間の空気を重苦しくしないよう心がけてくれた。
いつもいつだって、陽斗のことを考えて――。
「……そうだな」
なのに、自分は、そんな彼の気持ちをわかっていながらはぐらかし、きちんと向きあってはこなかった。
それは自分に発情がないせいもあったけれど、臆病で逃げの体勢でいたせいもある。
つまり、自分は卑怯者だったわけだ。
発情がこないまま、契約終了と共にこの家を出て、それで高梨はどう思うのか。
一度でも考えたことがあっただろうか。
「……俺、最低な奴だ」
自分のしてきたことを省みれば、どれだけ身勝手だったかよくわかる。
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