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第127話 *
「バイブ欲しい。後ろ、刺激しないと、つらい」
「……けど」
この部屋には何もない。高梨のアタッシュケースも、今はここになかった。
「何でもいいから、挿れるもの、欲し」
発情したらどれほどつらくなるのか、長年近くで見てきていたからわかっている。最初の発情がきた小六のときから、陽斗はいつも光斗のそばで、その苦しみを支えてきた。光斗が何事もなく発情期を終えられるよう尽力していたのだった。
「待ってろ、何か、探してきてやる」
「……うん」
だから光斗の発情は、陽斗にとって性的なものではなく、どちらかというと病に苦しむ治療のような意味あいを持っていた。
ベッドから離れて、部屋の中を探し回る。けれど適当なものが見つからない。
「どうしよう」
光斗の性欲をおさめないと、いつまでもフェロモンが出たままになる。それでは本人もつらいし、周囲に迷惑もかける。何度か達かせれば楽になることも、経験から知っていた。
高梨はいつもアタッシュケースを手にこの部屋を去る。多分、彼の書斎にその鞄はおいてあるのだ。あれの中にはバイブも入れてあった。それを使えば、光斗の助けになる。
陽斗はドアに近づき、耳を扉に押しつけた。外からは何の物音もしてこない。高梨はボディガードを静かにさせて、そのまま自分も屋敷を出たのだろうか。
さっき聞こえた悲鳴は、高梨の声ではなかった。ということは、レア・アルファである彼は、警護の専門職であるボディガードに勝ったのだろう。
「……ンうぅん……っ、うッ……」
苦しげなうめき声がベッドから聞こえてくる。
「したい。……ね、したいよ、陽斗、お願い、陽斗のでいいから挿れて……」
「光斗」
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