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第128話
発情中のオメガは理性も道徳も吹き飛び、ただすることしか考えられなくなる。禁忌の縛りもなくなって、動物のようにそこにいる相手を求めてしまう。
バース性に囚われた不幸なオメガ。そんな奇異な本能の落とし子である自分ら双子。今ならわかる。母がどうして自分たちにあれほど強く、オメガの本能に振り回されるなと教えてきたのか。
オメガの呪われた欲望は、何もかもを破壊する力を持っているから。幸せも愛情も信頼関係も、すべてをまるであざ笑うかのように。
そしてそれは、発情にあてられたアルファにとっても同じことだった。
早く光斗を鎮めなければ。首輪もなく発情してしまったオメガがアルファに出会ったら。最悪の事態を考えると身震いする。明日には津久井が帰国するというのに。
陽斗はもう一度、ドアの向こうに耳をそば立てた。何の物音もしない。書斎は廊下を少し進んだところにある。陽斗は意を決して、鍵をあけた。
カチャリと音が響き、鍵が解かれる。ゆっくりとドアをあけて、廊下側を見ようとしたとき、ドアの真ん前に何か大きな障害物があることに気がついた。
「――え?」
陽斗は目をこらした。夕暮れの薄明かりの中、そこにいたのは――。
「……どうしてあけたんだ」
低く、咎めるような声がする。視線を上に向けると、表情をなくした高梨が立っていた。
「…………あ」
男がドアに手をかける。そして大きく外側にひらいた。
「部屋に籠もっているようにと、言ったのに」
絶望的な口調に、陽斗は凍りついた。
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