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第145話 フェロモンの秘密

◇◇◇  窓から差しこむ陽光に、夜が明けたことを知る。  くったりと上半身を男の胸にのせていた陽斗は、スマホの着信音に、ぼんやりと目を瞬かせた。 「……」  顔をあげれば、高梨が皺くちゃの背広のポケットからスマホを取り出している。ふたりはより添って床に寝転んでいた。  右手で陽斗の肩を抱いていた高梨が、左手で器用にスマホを操作する。 「はい」  どうやら相手は電話らしく、喋り声が小さく漏れ聞こえてきた。  陽斗の膝の上には光斗の頭が乗っていた。まだ眠っているのかピクリとも動かない。  あれから夜通し三人で抱きあい、いつ眠りに落ちたのか陽斗も記憶が定かではなかった。 「ああ、じゃあ、僕の家にきてください。彼は今ここにいるんで。ええ、予定が変わってしまったんです。鍵はあけときますから、勝手に入ってきてください」  高梨は通話を終えると、スマホで何やらリモート操作をしてから握っていた手を床に投げ出した。  三人とも疲労困憊で、まだ眠気に支配されている。陽斗もうつらうつらしていた。  そうしていたら、やがて階下からガチャガチャという音が響いてきた。玄関ドアがしまる音の後に、階段をのぼる足音がする。トントンという軽快なリズムに続いて、廊下を進む靴の音。やがてそれがあけ放たれた扉の前まできてピタリととまった。  そして、大きく息をのむ気配。 「なんだこれは」  驚愕の声に、陽斗は目をあけた。  ドアの前に、ひとりの男性が立っている。スーツ姿で、背が高く精悍(せいかん)な顔立ちの人だ。  男の声に反応して、光斗がパチリと目を覚ます。

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