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第146話
「津久井さん」
ガバッと身を起こすと、彼に向かって走っていった。
「津久井さんっ」
「光斗君」
男は光斗を抱きとめて、その姿に困惑した。
「いったいこれは、どういうことなんだ。何があった」
光斗はほぼ服を着ていなかった。下肢は丸出しで、首輪もない。津久井はその細い首に手をあてて顔色を変えた。
「まさか、噛まれた?」
うなじを確認するように、光斗の髪をかきあげる。
「ううん。噛まれてない。陽斗が守ってくれたから。挿入もされてないよ」
「……そうか」
ホッと息をつく津久井が、こちらに目を移す。
「唯一輝君、どういうことなんだい」
津久井の問いに、高梨はゆるく手を振って答えた。
「僕が、運命の番を得たんですよ。紆余曲折の末に。この人なんですが」
陽斗の肩を抱きよせて言う。
服を乱してぐったりとなっている高梨と陽斗を見て、津久井は眉根をよせた。それはそうだろう。三人の姿を見れば、乱交の後としか思えない。
「詳しい話は、後で。光斗君はまだ発情中ですよ」
「ああ」
津久井は首を巡らせて、部屋の匂いを嗅いだ。
「たしかに、光斗君の濃いフェロモンと、唯一輝君のフェロモンがわずかに感じられるな」
「津久井さん、待ってたんだ。早く噛んで、噛んで」
光斗が津久井の首に縋って言う。
「ああそうだね。わかったよ」
津久井は、光斗には優しげに話しかけた。
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