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第147話
「空いてる部屋はあるかな?」
津久井の問いに、高梨が廊下を示す。
「客室は三つありますから。好きな部屋を使ってください」
「ありがとう」
そう言うと、背広姿の紳士は光斗をお姫様抱っこに抱き直し、「じゃあ」と言って部屋を出ていった。
残された陽斗と高梨は、まだ床に横たわったまま動けずにいた。
「……とりあえず、よかった。光斗を無事に津久井さんに渡せて」
安堵の息をつくと、高梨が陽斗のつむじにキスをする。
「そうだね。君が頑張ってくれたおかげだ」
「けど、津久井さん怒るかな。俺が光斗を手でなだめたこと」
「どうかな。僕が彼だったら、怒りはしないな。嫉妬はするかもしれないけど」
高梨は陽斗の髪に、自分の頬をくっつけて話した。その声は、以前と同じ穏やかなものになっている。
「君がどういう子かわかればきっと許してくれるだろう。昨夜の事情は僕がきちんと説明してあげるよ」
かるくキスをして、それから身を起こした。
「さあ、ベッドにいこうか。まだ眠いだろう」
「……ん」
高梨が立ちあがり、陽斗の手を引いてベッドへと連れていく。陽斗が中に入ると、高梨もジャケットとスラックスを脱いで隣にやってきた。
陽斗は彼と顔を向きあわせるのがちょっと恥ずかしかったので、俯きがちに横たわった。
「まだしたい?」
高梨が陽斗の首の下に、手を差し入れてくる。腕枕の体勢だ。
「……ううん」
発情はもうおさまっている。身体はデトックスしたようにすっきりとしていた。
「けど、どうしてなんだろ」
陽斗は不思議に思ったことを口にした。
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