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第148話
「うん?」
陽斗の呟きに、高梨が問いかける顔をする。
「なんで、俺、発情したのが、噛まれた後だったんだろう」
まったく予想していない結果だった。
今まで発情の兆候が全然なかったのに、噛まれた瞬間、いきなり発情した。
オメガの発情は一般的に、アルファを誘うためのものだ。だから番になった後であんなに激しく発情しても意味はないのに。
「さあ? 君の身体のことだから、僕にはよくわからないけど」
高梨は陽斗の短い前髪を梳きあげて言った。
「けど、発情したってことは、噛まれたことでストレスがなくなったってことじゃないかな」
「……ああ、そうなのかな……」
彼の言葉に、答えを得た気分になる。
自分はずっと、発情は怖いもの、貞操を守るために絶対に避けなければならないものと思いこんでいた。いつもその戒めが心の底にあった。
けれど成長するにつれて、肉体は発情の準備ができていたようだし、高梨と出会って恋に落ちて、自身も発情したいと望むようになった。
なのに、臆病なためにその一歩を踏み出せないでいた。鬱々とした心を抱えたままで、彼に対して素直にもなれていなかった。
しかし昨夜の出来事で、やっと自分の心を高梨にさらけ出してうなじを噛んでもらい、番になることができた。これでもう他のアルファを誘うこともなくなるし、襲われる心配もない。発情は怖いものではなくなった。その安心感が心を解放して、発情を呼び起こしたのだ。
光斗にも言われたが、どうやら自分は思っていた以上に潔癖な質だったらしい。安心できる環境が整わないと、発情も芽吹かなかった。
「でも、じゃあ、どうして高梨さんのホテルに泊まったときは、フェロモンが出たんだろう」
あのときは発情していなくて、でもフェロモンだけはわずかに出していた。
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