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第149話

「どうしてかはわからないけど、あの夜、君はとても安らいだ表情で眠っていたよ」  髪の一本一本まで愛おしむように撫でながら高梨が言う。 「……そっかあ。なら、俺はきっと、高梨さんが丹精こめて作ってくれた寝室だったから、ストレスフリーになってフェロモンが出たのかな」 「オメガはアルファの持ち物を集めた巣で眠ると安心できると言うからね」 「でも、この家にきたときはフェロモンが出なかった。うん、それは多分、俺が緊張してたからなんだろうな。発情しなきゃってプレッシャーがあったし」  説明しながら、自分の性格にちょっとへこむ。 「何だか俺って、すっげー神経質で小心な奴みたい……」  そんな人間のつもりはなかったのに。自分の欠点と向きあうのは割と落ちこむ。俯いた陽斗に、高梨は優しくフォローを入れた。 「そうじゃなくて、僕の番は、とっても繊細で、人の気持ちに敏感な子だったってことだよ」  しょげた目を相手に向けると、優しく微笑まれる。 「君のそういうところが大好きだよ」  全肯定する懐の深い愛情を示されて、陽斗は身体中がくすぐったくなった。それをごまかすために高梨にくっつく。 「俺も、高梨さんのこと、大好きだよ……」  言葉の最後はモゴモゴと小声になってしまう。けれどちゃんと聞こえていたらしい。「ありがとう」と嬉しそうに返された。 「さあ、もう少し眠ろう。君もまだ疲れてるだろう」 「……うん」  彼からはほんのりアルファフェロモンが漂っている。その甘い匂いに誘われて、また瞼が重くなる。 「……高梨さん」 「うん、何だい?」 「俺、フェロモン、出てる……?」  陽斗の問いに、高梨は静かにささやいた。 「出てるよ。とてもいい匂いだ。僕以外は知ることのない、幸せを感じる素敵な香りだよ」 「……そっか」  その台詞に安堵して、陽斗はまた、深い眠りについた。

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