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第150話 ふたりで未来へ
◇◇◇
「陽斗君、後は僕がやってあげるから、君はもう座ってなさい。立ちっぱなしはつらいだろう」
ダイニングから顔を出した高梨が、心配げな様子で話しかけてくる。
夕食の用意をしていた陽斗は、土鍋の蓋を手にしながら首を振った。
「大丈夫だよ。もう仕あがったから。これをそっちに持っていったら終り」
「じゃあ僕が運ぼう」
高梨がキッチンにやってきて、陽斗の横に立つ。
「すごく美味しそうだ」
土鍋の中の鯛飯を見ながら微笑んだ。
「けど、急に人数が増えたし、急いでたから、ちょっと焦げたみたい。大丈夫かな」
鍋から立ちのぼる湯気がこげ臭い。割と心配になるレベルだ。
「え? じゃあ、コレ、失敗作?」
高梨が期待を含んだ顔になる。
「そうかもしんないけど、まだわかんないよ」
せっかく一所懸命作ったのだ。陽斗としてはやはり美味しく食べてもらいたい。口を尖らせた陽斗を見て、高梨は「ごめん」と頬にチュッとキスをした。
その甘い仕草に、胸がときめく。
高梨は先ほど目覚めたときから、陽斗に対してデレデレになった。
元々甘いところはあったのだが、さらに蜂蜜に砂糖をまぶしたようなスイーツの塊になってしまった。恰好いいレア・アルファなのに、目尻はさがりっぱなしで声まで蕩けている。
「あと少し蒸らしたらできあがりだから、そろそろふたりにもきてもらわないと」
「わかったよ」
高梨が鍋を持ち、陽斗が茶碗を手にして、ダイニングのテーブルに移動する。小鉢を準備したり、箸を並べたりしていたら、光斗と津久井がやってきた。
「わー美味しそう」
ふたりともシャワーを浴びたらしく、すっきりとした顔をしている。そして光斗からは何の匂いもしなくなっていた。
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