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第152話

 高梨みずから、かいがいしく椅子を引いて手招く。それで四人(そろ)ってテーブルに着いた。  陽斗の作った鯛飯はやっぱり底がこげていて、皆に食べさせるのは申し訳なかったけれど、三人とも美味しいと言ってきれいに食べてくれた。 「何ものにも代えがたい、愛情のこもった味がする」  隣に座った高梨などは、そんな風に手放しで()めてくるものだから、陽斗は照れくさくなってしまった。 「ところで、光斗。これからのことなんだけど」  話題を変えて、光斗にたずねる。 「うん。何?」  四人はほぼ食事を終えて、食後のデザートである果物の盛りあわせをつまんでいた。 「津久井さんがアメリカで働いているのなら、お前も一緒に渡米することになるの?」  そうなると淋しくなるなと思いつつたずねてみる。すると、光斗の横に座っている津久井が質問に答えてきた。 「いや。光斗君はこのまま日本で大学に通い続けてもらうよ。僕のほうが、仕事を辞めて日本に戻ることにするから」 「えっ?」 「光斗君には、翻訳家になりたいという夢があるだろう。それを叶えてやりたいんだ。僕に関してはまあ、だいたいどこでも仕事は見つかるだろうから。すぐに手続きをして帰国する予定にしている」  そう言って、津久井が光斗にニッコリと微笑む。津久井は高梨とはまた違った種類の男前で、一見すると厳めしい印象を受けるのだが、そんな彼も光斗の前ではデレデレだった。 「そうなんだ。光斗、よかったな」 「うん。オレも嬉しい」  身をよせあうふたりからは、ハートマークが飛んでくるようだ。

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