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第154話
「光斗君の将来が決まってよかった」
高梨は前屈みになって、膝の上に手を組んで言った。
「うん。本当に」
「彼は翻訳家になりたかったんだ?」
「そうなんです。だから、渡米することになるなら、あいつの夢はどうなるんだろうって心配してたから」
「夢を叶えるってことは、素晴らしいことだからね」
「……ところで、話したいことって何ですか?」
誘われた理由が気になった陽斗は、話題を変えて問いかけた。
それに相手は口角をあげて、どう伝えたらいいだろうか、というような表情をする。陽斗は続きを待つ瞳を彼に向けた。
「実は、今度ね。この前、君を連れていったホテルに、ね」
「はい」
高橋は言葉を句切りながら話し始めた。
「ペット同伴の宿泊プランを、取り入れようかと考えているんだ」
「え」
「そういうホテルも全国にいくつかあるし、ペットと一緒に旅行できるのは楽しいだろうから」
「……」
「ペット専用の美容室も地下店舗に入れるつもりなんだ。そちらは宿泊しなくても利用できるようにしたい」
陽斗は聞いていて、胸がドキドキしてきた。
「美容室には腕のいいトリマーを雇うつもりだ。もうあたりもつけている。コンテストで何度も優勝している、有名な人だよ」
「……そ、そうなんだ」
心の中で勝手に都合のいいことを期待していた陽斗は、高梨の言葉に気抜けした。しかし一流ホテルが始める美容室なのだ。一流のトリマーを雇うのは当然だろう。
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