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第155話
「それでだね」
組んだ手をかるく揉 むようにしながら高梨が続ける。
「もしよかったらなんだか。その店で、助手として働いてみないか」
「えっ?」
高梨は陽斗の反応を見つつ、言葉を選んで続けた。
「君が、僕の手助けを欲しがっていないことはよくわかっている。自分で仕事は探すと言ってたしね。けど、僕としては、ほんのわずかだけれど、君の夢を叶えるために、力添えができたらと思ってるんだ」
どうだろうか、というように小首を傾げてこちらを見てくる。陽斗は大きく目をみはった。
「腕のいいトリマーのもとで修行をすれば、それはきっと君のためになるだろうし、将来、自分で店も持てるようになるだろうし」
「……高梨さん」
「僕としてはうちのホテルのペット宿泊担当になって欲しいかな、とか考えてみたりしてるんだが」
揉んでいた手をかるく広げて肩をすくめ、内心の煩いを隠すようなおどけた仕草をする。多分、陽斗が断ることになっても、気にしていないという風を装いたいからなのかもしれない。ニコリと笑ってみせた顔は、少し無理をしているようだった。
そんな気遣いを見せられて、陽斗は今までの自分の我儘 だった部分を反省した。こんなに優しい人なのに、自分はオメガのコンプレックスに縛られて、ずいぶんひどい態度を取ってしまっていた。
「……ありがとう、高梨さん」
この人のおかげで、自分はどれだけ幸せになることができたか。どれだけ大切にしてもらえたか。
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