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第3話 独占欲
黒崎が見慣れぬ男と一緒に社員食堂へ入ってきたことに、初めに気づいたのは入り口のほうを向いて座っていた川上だった。
「あれ? 沢井、黒崎が珍しく二人連れで来たぞ」
「え?」
沢井が振り返ると、黒崎が同年代の青年とともに、空いたばかりのテーブル席に座ったところだった。黒崎のほうからは沢井たちが座っている席は見えないのか、彼が沢井たちに気づく様子はなかった。
「黒崎と一緒にいる男、あれ誰だ?」
沢井の声が険しさを帯び、眉が自然とひそめられる。
すると川上が思い出したというように、口を開いた。
「あー、あいつ、確か新しく来た精神科の医師だ。そういえば、看護師の女の子たちが噂してたわ。若くてけっこうイケメンの新しい先生が来たーって。あいつのことだったんだ」
「ふーん……」
でも、どうしてそんな新入りが雅文と一緒に社食に来るんだ?
他人とかかわるのが超苦手なあいつが、あんなふうに同じテーブルで向かい合って食事するなんて。
沢井としては、あまり愉快とは言えない気持ちだ。
「なに? 沢井、おまえやきもち妬いてんの?」
不愉快さを顔に出したつもりはなかったのだが、川上は大学時代からの親友である。沢井のクールさの下に隠された本音をしっかり読み取ったようだ。
「別に」
「まーたまた。沢井は黒崎のこととなると、ほーんと分かりやすいよな。でもさ、ああやって一緒にいると、新入りイケメンだし、けっこう黒崎とお似合いじゃん?」
ピキッと音がするくらいの鋭い目で、沢井は川上を睨んだ。途端に川上が竦みあがる。
「じょ、冗談だよん。おまえは怒ったら、美形なぶん迫力あんだから、怖いよー。睨むなよー」
「そう思うなら、変な冗談言うなよ」
沢井はもう一度、黒崎と、新しく来たという精神科医のほうを見た。
……雅文にも同年代の友人ができてもおかしくないけど。
でもまあ、あんまりいい気分じゃないな……。
沢井は内心そんなことを思っていた。
沢井は黒崎のこととなると、独占欲の塊になり、大人げない男になってしまうのだった。
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