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第7話 好青年の素顔
唯一気に入らないのは、黒崎の先輩医師の沢井という男だ。
黒崎と話をしたのは今日が初めてだが、鈴本は先週から源氏ケ丘大学附属病院で働き始めている。
外科と精神科が同じフロアにあるので、時々、黒崎の姿を見れるのは良かったのだが、彼が沢井と付き合っていることまで分かってしまった。
二人がお互いを見るときのまなざしや、さりげなく交わされる視線などから、鈴本にはすぐに二人の関係が分かった。
黒崎は無表情だし、沢井のほうもクールなタイプのようなので、気づいている人間はおそらくいないだろうが。
鈴本は力任せにテーブルを叩いた。
「あの野郎……、許さねぇ……!」
聞くまでもなく耳に入ってきたところによると、沢井はバツイチで、元妻は同僚の女性医師という話だった。
おまけにその元妻とのあいだに娘までいるらしい。
どうして、黒崎はそんな男を愛しているのか。
鈴本は拳を握りしめた。
今、この瞬間にも、あの男が黒崎を抱いているのかもしれないと思うと、嫉妬で胸が焼け焦げそうだった。
「ふざけやがって……!」
鈴本は再び拳でテーブルを打ち付けた。
激昂する鈴本の姿は、好青年という印象とは程遠いものだった。
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