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第12話 ラブラブ
沢井はキッチンの冷蔵庫からミネラルウオーターを取り、寝室へ戻る。
黒崎が起き上がろうとするのを制して、言った。
「いいから横になってろ。オレが飲ませてやるから」
沢井はミネラルウオーターを自分の口に含み、黒崎の唇と自分の唇を重ねると、口移しで彼に水を飲ませた。
「……ん……」
「もっと?」
「うん……、和浩さん」
うっとりとした瞳で黒崎がねだる。
結局、500mlのミネラルウオーターの半分ほどを口移しで飲ませてしまった。
沢井は残りのミネラルウオーターを飲み干すと、黒崎の隣に寝ころんだ。
黒崎を腕の中に包むと、彼は沢井の胸に自分の頭を寄せてきた。
病院にいるときの無表情、無愛想が信じられないくらい、沢井と二人きりでいるときの黒崎は甘えん坊だ。
「……あ、そうだ、和浩さん」
沢井の腕の中で、黒崎が思い出したように言った。
「昨日のチョコレート、もう全部食べちゃったの?」
「え……?」
沢井は口籠ってしまう。
「珍しいよね。和浩さん、それほど甘いもの好きじゃないのに」
沢井が食べたとまったく疑っていない彼の様子に、黙っていることができなくなり、白状した。
「……悪い。あれ、捨てちまったんだ」
「え? どうして? もったいない……」
「だって、鈴本からもらったものだろ? なんか気に入らなかったんだよ」
「……? どうして?」
恋愛事には疎い黒崎は、鈴本が自分に気があるとはまったく考えてもいないみたいだ。
「鈴本は、おまえに気があるから、気に食わないんだ」
はっきりきっぱり沢井はそう言ってやった。
「は?」
黒崎は最初、きょとんとした表情をしていたが、やがて小さく笑った。
「まさか、そんな。和浩さん、考え過ぎだよ」
「…………」
考え過ぎなんかじゃなく、沢井ははっきりと確信していたが、黒崎はイマイチ自分がどれだけ魅力的なのか理解していないので、そんなことあるはずないと笑うばかりだ。
「……和浩さんって、嫉妬深かったんだ?」
黒崎は愛くるしい笑顔で、そんなことを言ってきた。
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