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第13話 愛し合う二人に近づく邪悪な人間
「悪いかよ? オレ自身、今まで生きてきて、自分がこんなに嫉妬深いって初めて知ったんだよ」
「和浩さん……」
「おまえのこととなると、オレは独占欲の塊みたいになっちゃうんだよな」
少しぶっきらぼうな口調で本音を吐き出すと、黒崎は沢井にギュッと抱きついてきた。
そして、はにかんだ声で告げる。
「うれしい……」
「雅文……」
「……オレもおんなじだよ、和浩さん。オレも和浩さんだけは、絶対に絶対に他の誰にも渡したくない……。こんな気持ちになったの、生まれて初めて」
「おまえはなにも心配しなくてもいいよ、雅文。言っただろ? オレの人生は丸ごとおまえのものなんだから……」
彼の額にふわりとキスをして、沢井が囁くと、
「オレもだよ? オレのすべては和浩さんのものなんだから。嫉妬なんかする必要ないよ」
黒崎はそう応えて、花がほころぶように笑った。
その笑顔はとても綺麗で、少しだけ儚さをも感じさせ、沢井は愛する人の細い体を力いっぱい抱きしめた。
マンションの自室で鈴本は、一人薄笑いを浮かべていた。
昨日の夕方、偶然を装い屋上で黒崎に近づき、鈴本は彼に暗示をかけた。
鈴本は催眠療法を得意としている。
ラッキーなことに黒崎は暗示にかかりやすい質だった。
チョコレートを渡すことで、一瞬心に隙を与え、催眠状態にして、黒崎の耳元へ、
『沢井和浩は、あなたを裏切り、元妻と子供のところへ帰ろうとしている』
そんな言葉を吹き込んだのだ。
勿論、一度ではほとんど影響は出ていないだろう。
でも暗示を繰り返すことで、黒崎の心には沢井に対する疑心が芽生えてくるはずだ。
鈴本はそれを狙っていた。
短い時間でもいい。黒崎と二人になるときを見つけて暗示にかけ続けよう。
邪悪な笑みを浮かべながら、鈴本はそんなことを思っていた……。
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