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第15話 ここにいるから
沢井は大きな手で黒崎の涙を拭ってくれ、力強く抱きしめてくれた。
「バカだな、ただの夢だろ? オレはここにいるし、おまえを置いてどこにも行ったりしないよ」
「和浩さん……」
「おまえが嫌だって言っても、傍にいるから。オレの雅文への執着心はそこらのストーカーなんか目じゃないからな」
沢井の言い方がおかしくて、黒崎は涙を目に溜めたまま笑ってしまった。
沢井は黒崎の目元にキスをしてから、聞いてきた。
「ところで、おまえちゃんと晩飯、食ったのか?」
「あ、ごめんなさい。晩御飯作って待ってようって思ってたのに、寝ちゃった……」
「オレはともかく、おまえはしっかり食わなきゃだめだろ。そんな華奢な体して。……オレのこと待ってなくていいから」
「だって、和浩さんと一緒に食べたいもん」
黒崎が上目づかいで言うと、沢井は困ったような顔で小さく唸った。
「そんなかわいいこと言われたら、我慢できなくなるだろ……? とりあえずなんか食わなきゃ。……そうだ、今夜はオレがレバニラ炒め作ってやるよ」
「え……、オレ、レバー苦手なんだけど」
黒崎がおずおずと言うと、沢井は得意そうに笑った。
「大丈夫。オレのレバニラは、レバーが苦手でも食える味付けなんだ。とにかくちょっとそこのスーパーまで買い物に行ってくるよ」
「えっ……? 出かけるの? 和浩さん」
途端に黒崎の中で不安がよみがえる。
「なんて顔してるんだよ、すぐそこまで行くだけだよ。速攻で帰ってくるから」
「…………」
「……分かった。じゃ、一緒に行こうか? 雅文」
「うん」
黒崎は微笑んでうなずいた。我ながら子供みたいだな、と思いながら。
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