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第18話 平和なひととき
初めは、三日も休むなんて……と、ブツブツ文句を言っていた黒崎だったが、いざ休みに入ると楽しそうにしていた。
積読状態になっていた本を読んだり、沢井のために手の込んだ料理を作ってくれたり、たっぷり愛し合ったり……。
「和浩さん、ありがとう。休みとって良かった。溜まっていた疲れも取れたし、和浩さんともゆっくり過ごせたし」
休みの最終日、二人で晩御飯の片づけをしているとき、黒崎がはにかんだ微笑みを見せて言った。
「だろ? たまにはゆっくり休むことも必要なんだよ、人間には」
「じゃ次は和浩さんが休みとってね。和浩さんだってオーバーワークなんだから、オレ心配だよ」
「オレはおまえより頑丈にできてるから、大丈夫だよ」
「ダメ」
そんなやり取りをしていたら、黒崎のスマートホンがメールの着信音を鳴らした。
黒崎はポケットに入れていたスマートホンを出し、メールを確認する。
「誰から?」
「山本から。今夜、夜勤らしいけど、1503の向芝さんが、オレを呼べってうるさいんだって」
山本とは彼と同期の研修医で、向芝とは十日前、骨折で入院してきた若い男性患者のことだ。
向芝は黒崎のファンで、なにもなくても、「黒崎先生、呼んでよ」という、ちょっと困った患者だった。
「もう退院させてもいいんじゃないか? 向芝は」
「それはまだ無理だよ。和浩さん」
黒崎は笑うが、沢井としては、複雑なのだ。
この頃、黒崎の人気は女性患者にとどまらず、男性患者にまで現れ出している。向芝はその典型だ。沢井としては心穏やかではいられない。
鈴本のこともあるしな……。
鈴本のことを考えると、沢井は一気に嫌な気持ちになる。あの一見、好青年然としている医師の、敵意の籠った瞳を思い出す。
沢井は頭を軽く振って、不愉快な感情を追い出した。
愛する人との二人きりの時間に、あんな男のことを考えたくなかった。
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