19 / 69

第19話 謎の電話

「和浩さん、お酒飲むでしょ?」  黒崎がウイスキーのグラスを出しながら、聞いてくる。 「ああ」  自宅で飲むときは、リビングのソファに並んで座って飲むのが二人のスタイルだ。  沢井はウイスキーの水割りを、黒崎はビールを飲み、ミックスナッツやチーズをつまみに、他愛のない会話を楽しむ。  程よく酔いが回り、頬をピンクに染めている黒崎が色っぽい。  沢井が彼を引き寄せ、口づけを交わそうとしたとき、色気のない音がムードをぶち壊すように鳴り響いた。  キッチンからスマートホンの着信音が聞こてきたのだ。  黒崎が、「あ」と小さく呟き、沢井の腕の中から抜け出す。 「スマホ。さっきのメールのときに、キッチンに置いてきたままだった」  そう言ってパタパタとリビングを出て行く。  沢井はせっかくの色っぽい雰囲気を邪魔したスマートホンに、心の中で悪態をついた。  誰だよ? こんな時間に電話なんかかけてくんのは? もしまた山本の野郎だったら、明日、殴ってやる。 「……はい。黒崎です」  キッチンから黒崎の声が聞こえてくる。 「もしもし? はい。……はい。……え?」  彼の声がオクターブ高くなったかと思った次の瞬間、なにかが倒れるような大きな音がした。 「雅文っ!?」  沢井が慌ててキッチンへ行くと、黒崎がテーブルの傍で倒れていた。 「雅文っ!! 大丈夫か!?」  彼の頭を動かさないように気をつけながら、そっと首の後ろに手を入れて、声をかける。  黒崎は意識を失っていた。  沢井は彼の手を取り、脈を確かめてみた。少し速い。  ――すぐに黒崎は意識を取り戻してくれ、 「雅文……」  不安な気持ちで名前を呼ぶと、彼は大きな瞳をしばらく彷徨わせたあと、不思議そうな表情で沢井を見つめてきた。

ともだちにシェアしよう!