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第21話 夜の病院

「雅文、歩けるか? 今から病院行くぞ。脳外科の先生にはタクシーから連絡するから」 「え? 今から? そんな大げさだよ。もうなんともないし、大丈夫だって」  黒崎が壁の時計へ視線を送ってから、躊躇いの言葉を口にする。時刻は夜の十一時過ぎだ。 「ダメだ。少しのあいだとはいえ、意識を失ってるし、倒れたときに頭を打っている可能性もある。それに記憶が飛んでるのが気にかかる。早く診てもらったほうがいい」  沢井は頑としてそう言うと、タクシーを呼ぶため、スマートホンを手にした。  鈴本はソファに座って満足げな微笑みを浮かべていた。  さっき公衆電話から、黒崎のスマートホンに電話をかけ、彼に催眠暗示をかけた。  結果は上々だったようだ。受話器の向こうから、黒崎がスマートホンを落とし、倒れたような音が聞こえてきた。  倒れた彼が怪我をしていないか、それだけが気がかりだったが、あの忌々しい沢井がいることだし大丈夫だろう。  黒崎は休みを取っているのか、この三日間まったく姿を見ていない。  それで思いついたのが、電話での催眠暗示だったのだ。  鈴本は黒崎の写真でいっぱいのテーブルを見おろし、笑みを深めた……。  病院に着くと、当直の山本と川上が目を丸くして驚いていた。 「なんだ? 二人揃って、いったいどうしたんだ?」  川上が少し心配そうに聞いてくる。 「黒崎の具合が悪くなってね」  沢井が答えると、川上は黒崎のほうを見た。 「そう言えば、ちょっと顔色が悪いな、黒崎」 「そんなことないですよ。元気です」  黒崎が言葉を返したとき、脳外科の医師の田渕(たぶち)が入ってきた。  田渕は、沢井と川上の大学の先輩にあたる男性で、脳外科医としての腕はこの病院で一番だった。

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