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第22話 夜の病院②

「黒崎が倒れたんだって?」  田渕はチラッと黒崎のほうを見てから、沢井に聞いた。 「ええ。数分間なんですが、意識を失って、その前の記憶がないみたいで」  沢井の説明に、田渕は少し眉をひそめる。 「とにかく診察室で話を聞こうか」  田渕に言われて、黒崎と沢井は外科のスタッフステーションをあとにした。  川上と山本が心配そうな顔で彼らを見送っていた。  脳外科の診察室での問診は、黒崎一人で受けた。  普段は自分が診察をする立場なので、こんなふうに診察を受ける身になると、やたらと緊張してしまう。 「……で、おまえと沢井は一緒に飲みに行ってて、そこにスマホが鳴り、それに出たところまでは憶えているんだな?」  田渕がメモを取りながら確認してくる。  沢井と同棲していることは、彼の親友の川上しか知らず、秘密にしていることなので、自宅で飲んでいたというところは、二人で飲みに行っていたと説明していた。 「はい。……それで次に気づいたときには床に倒れてて……」 「電話の相手が誰だったのか、まったく憶えてないのか?」 「はい……」 「知り合いだったとか、間違いだったとか、それも分からない?」 「……分かりません」 「電話に出たときは既に切れてたってことはないか?」 「それはないと思います。確かに誰かの声を聞いた気がしますから」 「そうか」  田渕はいろいろと書き込んでから、 「とりあえずMRIの検査を受けてもらおうか。準備もできているから」  そう言うと、立ち上がった。 「二人で酒を飲みに行くほど、おまえと黒崎が親しいとは意外だな、沢井」 「そうですか? オレだって後輩はかわいいですし、特に黒崎は飛び抜けて優秀ですからね。オレのほうもいい刺激を受けます」  田渕の言葉に、沢井は当たり障りのない返答をした。  沢井と黒崎が恋人関係にあるということは、親友の川上と元妻の三月しか知らないし、二人が同棲していることは、川上しか知らない。  別に悪いことをしているわけではないのだから、隠す必要はないのだが、かといっておおっぴらに発表することでもない。……沢井の本音としてはカミングアウトでもなんでもして、黒崎は自分のものだと公言したいのだが。  

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