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第25話 医師魂
「せっかく来たから、向芝さんと坂本さんの様子を見てこようかなって」
黒崎の言葉に、沢井は呆れた。
ここまで医師魂の強いやつっていうのも、今の時代には珍しいかもしれない。
「なに言ってるんだ! おまえは今夜は患者として来たんだぞっ。家へ帰ってゆっくり寝るんだ」
「だってMRIの結果も異常なかったし、もう全然元気だもん。それに、和浩さん、オレ今日、朝の外来入ってるんだよ? このまま仮眠室で仮眠とって、仕事に出るほうが能率的だよ」
黒崎の理路整然とした言い方に、沢井は刹那、言葉に詰まったが、すぐに言い返した。
「分かった。じゃ仮眠をとって、採血センターが開いたら、すぐに採血してもらって、それからおまえは帰って寝ろ。今日はもう一日休みをとれ。おまえのシフトにはオレが出るから」
「やだ」
「雅文!」
「本当にもうなんともないし、和浩さんのほうこそ、ここのところハードだったから疲れているでしょ? 家へ帰ってゆっくりしてから出勤してよ……」
自分のことより、沢井の体を心配している彼の大きな瞳。
「雅文……」
沢井は黒崎のことを思い切り抱きしめたい衝動を必死でこらえた。
「……分かったよ。まったくおまえは言いだしたら聞かないんだから。その代わり絶対に無理はすんなよ。しんどくなったらすぐに言うこと。分かったな!?」
「はい」
初々しい後輩の顔になって応える黒崎。沢井は、今日はあまり忙しくならないように願うばかりだった。
「じゃ、仮眠室、行こうか。オレもここで仮眠とってから仕事へ出るよ」
仮眠室にはベッドが一つと、折り畳み式のベッドが一つあり、定員は二名だ。
「え? 和浩さんも仮眠室で眠るの?」
「なんだよ? 雅文。オレは仮眠室使っちゃいけないのかよ?」
「そんなことはないけど……」
語尾が消え入り、黒崎は頬をピンクに染める。
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