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第28話 不快と不安
「黒崎、どうかしたか?」
田渕に声をかけられて我に返る。
「……あ、いえ」
黒崎はもうこの話題は聞きたくなかった。
なのに、田渕は重ねて話してくる。
「オレはな、沢井と三月はまだお互いに好き合ってると思うんだよ。離婚なんてことになったのも、ちょっとしたボタンのかけ違いのようなことが原因だと思う。あいつらには愛奈ちゃんって子供もいるし。オレとしては一日も早く寄りを戻してほしいんだ」
田渕の口から沢井と三月のことが紡ぎだされる度、黒崎の中の不快感が増していく。
「それでな黒崎、おまえのほうから沢井に、それとなくハッパかけてみてくれないかな。オレや川上が言っても聞く耳を持たないけど、案外おまえの言うことなら素直に聞くかもしれない」
「……オレ、そんなことできません……」
吐き気がする。不快で不安で……すごく厭な気持だった。
「あ、いやいや。勿論そんなはっきり言わなくてもいいんだよ。それとなく、三月先生とは寄りを戻さないんですか、とかさ。飲んでいるときにでもサラッとさ。かわいがっている後輩からの言葉なら、沢井もちょっとは考えるかもしれないからな」
黒崎の不安げな様子を、先輩に意見する遠慮ととったのか、田渕が慌てて言い繕う。
「とにかくこのままじゃ、あいつらもだけど、なにより子供がかわいそうだしな。うん、まあ、機会があればでいいから、頼むよ」
言いたいことを言い、黒崎の肩をポンと叩くと、田渕は去って行った。
その場に一人残された黒崎は、どんどん膨れ上がってくる不快感と不安感と疑心に、苛まれていた。
どうして今更こんな気持ちになるんだ?
和浩さんと三月先生の復縁などありえない。たとえ子供がいたって。
そのことは黒崎が一番よく分かっているはずだった。
『オレの人生、丸ごとおまえにやるよ』
和浩さんはそう誓ってくれたし、オレもそれを信じてる。
それに、今まで彼と三月先生のあいだに、そんな雰囲気を感じたことなどまったくない。
……以前、和浩さんが言ってたじゃないか。
田渕先生は三月先生がお気に入りで、なにかにつけ復縁させたがって困るって。
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