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第33話 口づけ

「雅文……、どうしたんだ? オレ、なにかおまえを不安にさせるようなことしたか?」  頬を濡らす涙を拭ってやりながら、沢井が聞き返すと、黒崎はかぶりを振った。 「和浩さんは悪くない……。でも、オレ、不安で。どうしてだか分からないけど、すごく不安で……。自分でもどうすることもできないくらい……不安……」 「バカだな。おまえはなにも不安になることなんかないのに。オレがどれくらい雅文のことを愛してるか……できるものなら、この胸でも頭でも、メスで切り開いて見せてやりたいくらいだよ……」  沢井が偽りのない真実を告白すると、黒崎は沢井の目をじっと見つめてきて、それから少し落ち着きを取り戻した。 「和浩さん……、愛してる……」 「雅文……」  沢井は彼の額にそっとキスをした。 「……心配したんだぞ。おまえが駅の階段から落ちて、意識不明って聞いて……」  黒崎は沢井にそう言われて、ようやく自分の状況に気づいた様子だった。 「あ……、そうか。オレ、駅の階段で足を滑らせて……」 「ほんとに気をつけろよ。オレは生きた心地がしなかったんだからな」 「うん……、ごめんなさい……」  沢井は彼の小さな顔を大きな手で包み込むと、優しく唇を重ねた。 「……ん……」 「雅文……、好きだよ……」  黒崎の柔らかな唇の感触が心地よくて、愛おしくて、沢井は彼とのキスに溺れていく。  誘うように開かれた黒崎の唇のあいだに、沢井は舌を差し入れる。  舌を絡め合い、お互いの存在を貪り合うような淫らなキスを交わしていると、背後で咳ばらいが聞こえた。  文字通り飛び上がるほどびっくりした沢井と黒崎は、慌ててキスを中断した。

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