34 / 69
第34話 叱咤
沢井が振り向くと、川上がかすかに頬を赤らめて扉の傍に立っていた。
「おまえらなー、ここをどこだと思ってるんだ? 病院だぞ、病院!」
「…………」
「…………」
黒崎はトマトのように真っ赤になってうつむいてしまい、沢井はばつの悪い表情を浮かべるしかできなかった。
「心配して様子を見に来たら、なんだよ。イチャイチャとちゅーなんかしちゃって。だいたい入ってきたのがオレじゃなかったら、どうするつもりだったんだよ? まったく」
川上は腕を組んでブツブツ文句を言っている。
「悪い」
沢井はそれしか言えない。
「黒崎も、もう大丈夫そうだな。それにしても駅の階段から落ちるなんて、軽傷で済んで良かったものの、おまえらしくない不注意だな。気をつけろよ。沢井が心配のあまり死にそうだったんだからな」
「はい。すいません……」
見事なもので黒崎はもう、ポーカーフェイスを取り戻していた。……内心では、まだかなり狼狽えていることは沢井にだけは分かったが。
「……じゃオレ、スタッフステーションに戻るけど、もう病室でちゅーはするなよ。あ、勿論エッチもするなよ!」
川上は最後に強く釘を刺してから出て行った。
再び二人きりになった病室で、黒崎が聞いてきた。
「和浩さん、そんなに心配してくれたんだ……?」
沢井は黒崎を横にならせながら、少し叱るような口調になって答えた。
「当たり前だろ。さっきも言ったけど、本当に生きた心地がしなかったんだからな」
「ごめんね……」
「……もういいから、少し眠れ。手を握っていてやるから……」
「うん。和浩さん」
黒崎は目を閉じると、すぐに穏やかな寝息を立て始めた。
ともだちにシェアしよう!