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第35話 真相が分かるとき
黒崎の手をしっかりと握ってやりながら、沢井は彼の精神状態がかなり不安定な状態にあることを心配していた。
感情を外に出すことなく、着実に外科医としてのスキルを上げている黒崎は、表面だけを見れば、とても強く映ることだろう。
だが彼は本当はとても繊細で、沢井の前だけでは寂しがり屋で甘えんぼうの素顔を見せてくれる。
……でも、あんなふうに不安を強く訴えたことはなかった。なのに、どうして急に……。
今更、本当に今更、三月の名前が出てくるのはどういうわけだ?
穏やかな顔で眠っている愛する人を見つめながら、沢井はひどく困惑していた。
鈴本が黒崎の事故のことを知ったのは、午前中の外来の診察が終わってからだった。
慌てて黒崎の病室へ駆けつけると、彼はベッドで半身を起こし本を読んでいた。
「怪我、大丈夫なんですか!? 黒崎先生」
「ああ……大丈夫です。かすり傷なので来週には退院できます」
確かに、外傷はあまりなく、両腕に大きめの絆創膏が貼られているくらいだった。
とりあえず、軽い怪我で済んだことに、鈴本は安堵した。
「良かった。オレ、あなたが事故に遭ったこと、今、聞いて……すごく心配でたまらなくて」
「すいません……」
黒崎はそう言い、軽く頭を下げる。
鈴本は黒崎をじっと見つめた。
相変わらずのポーカーフェイスと遠い距離感。
鈴本は自分の催眠暗示が、彼に浸透していないのを感じた。
……もっと数をこなさなければいけないのかもしれないな。
ちょうどいい。個室で二人きりだ。じっくり暗示をかけてやろうじゃないか。
「黒崎先生」
「え?」
黒崎が鈴本のほうを見た瞬間、いつものように人差し指を彼の目の前に立てて、催眠状態へ落とした。
沢井は午前中の外来の診察を終え、黒崎の病室へと向かっていた。
平日の午後は見舞いの人も少なく、病棟内は静かである。
沢井が黒崎の病室の扉を開けようとしたとき、中から話し声が聞こえてきた。
その話の内容に沢井は愕然とした。
「……沢井は、黒崎さんを裏切って三月と子供のもとへと行こうとしてるよ。……沢井は黒崎さんを裏切って――」
沢井は思いきり扉を開いた。
「なにをしているんだ!?」
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