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第37話 真相が分かるとき③
今にも鈴本へ殴りかかろうとする沢井を、黒崎は後ろからギュッと抱きしめて止める。
「雅文……」
「和浩さん……」
黒崎は沢井に向かって小さくかぶりを振ってから、鈴本のほうへ視線を投じた。
「鈴本先生、もしもあなたの催眠暗示が成功して、オレが、沢井先生は三月先生のもとへ行ってしまうと完全に思い込んだとしても、あなたに好意を抱くことは決してありえません。……オレはいつまでも沢井先生のことを愛し続けますから」
まっすぐに鈴本の目を見据えて、黒崎はそう言い切った。
鈴本は黒崎の言葉に逆上した。
「うるせぇ!! あんたはさっさとオレのものになればいいんだよっ!」
悪鬼のごとき表情で、黒崎に向かって叫んだ。
鈴本の本性が露見された瞬間だった。
そのあとの展開は慌ただしいものだった。
鈴本の逆上した大声に驚いた看護師が病室に飛び込んできたのを潮に、鈴本はフイッとその場から立ち去ってしまった。
そしてそれきり、彼が源氏ケ丘大学付属病院へ戻ってくることはなかった。後日、辞職届が精神科の部長の元へ送られてきたらしい。
立つ鳥跡を濁しっぱなしで、後味の悪いことこのうえないが、黒崎本人にきっぱりと拒絶されたことが、プライドの高そうな鈴本には耐えられなかったのだろう。
翌週、黒崎が退院した日の夜、二人は一流ホテルのレストランで全快祝いをした。
「オレの不注意での怪我なのに、こんなところで食事なんて気が引けるよ」
極まりが悪そうに呟く黒崎に、沢井は微笑んだ。
「いいじゃないか。たまにはこういうところでの食事もいいもんだろ?」
「……オレは和浩さんといっしょなら、どんな場所でもいい」
そう言って、フッと頬をピンクに染める彼がたまらなくかわいかった。
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