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第46話 眠りにつくまで②
沢井が優しい声で囁く。
「いいか、まず広い牧場を想像して……、それから、そこに柵があるのを思い浮かべて……」
……ん? と黒崎は思う。
とっておきの眠れる方法って……。
「そこにまん丸い羊が一匹現れて、ぴょんと柵を飛び越える……」
沢井の真剣な声に、黒崎はとうとうふきだしてしまった。
「こら、雅文、笑ってないで、ちゃんと目を閉じて想像しなきゃダメだろ」
「は、はーい」
黒崎はおかしくてたまらないのをこらえて、もう一度目を閉じた。
そして沢井の言う通りに、まるまると太った羊が柵を飛び越える姿を頭に思い浮かべる。
「するとまた一匹の羊が現れて、柵をぴょんと飛び越える」
沢井の低い声が耳元で囁く。
「三匹目の羊がぴょん、四匹目の羊がぴょん……」
……これって余計に目が覚めてしまいそうなんだけど……和浩さん。
最初は笑いをこらえるのが大変で、そんなふうに思っていた黒崎だったが、沢井の甘い声で囁かれ続けるうちにウトウトと心地良い眠気が訪れてきた。
二十一匹目の羊がぴょんと柵を越えたところまでは、なんとか思い浮かべることができたが、そのあとは眠りに呑み込まれ、想像することができなかった……。
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