48 / 69

第48話 部長へのカミングアウト

「……で、結局言えなかったんだ。ごめんなさい。田渕先生にあんなにがっくり肩を落とされちゃったら……」  黒崎は、沢井が用意してくれた朝ごはんをほおばりながら、田渕との会話を伝えた。  沢井は笑って、言った。 「田渕先生にはオレがはっきり言うから、雅文は心配しなくていいよ」 「えー……、でも、相手がオレだって分かったら、絶対猛反対されるよ、田渕先生に。そんなことになったら、オレちょっと落ち込んじゃうかも……」 「クールでなにごとにも動じない、ポーカーフェイスの黒崎先生がなに弱気になってるんだよ?」  沢井はからかうように言ってくる。 「だって、オレと和浩さんのこと知ったら、田渕先生、前以上に三月先生との復縁を和浩さんに迫ってきそうで……」  不安げに呟く黒崎の頭を、沢井は優しくポンポンとたたいた。 「だから、そんなこと不安に思わないでいいから。……それより、オレのほうは松田部長にちゃんと話しといたよ」 「えっ……」  思わず箸が止まる黒崎。 「そ、それで、部長はなんて?」 「うん。『ああ、そうだったんですか』って。あんまり冷静なんで、『もしかして、ご存じだったんですか?』って聞いたら、『恋人関係にあるとはさすがに思っていませんでしたが、先輩医師と後輩医師以上の絆があるとは感じていました』だってさ。観察眼が鋭いなーって思ったよ」 「……注意とかされた?」  戦々恐々として聞く黒崎に、沢井はおかしそうに笑う。 「そんなものされないよ。逆に、『黒崎先生の雰囲気が以前よりも柔らかい感じになったのは、沢井先生のおかげだったんですね』なんて、言われたよ」 「そうなんだ……」  和浩さんと愛し合うようになってから、自分の中に絶対的な安心感や幸せが芽生えて、それが部長の言うところの雰囲気が柔らかくなった、ということに繋がっているのかな……。  黒崎はくすぐったい気持ちで、微笑んだ。  夜勤で徹夜明けの黒崎は食事のあとシャワーを浴び、寝室で眠りについた。  黒崎が眠っているあいだ、沢井はリビングのソファに座り、自分と黒崎、二人の勤務表を見比べながら、なにかを考え込んでいた。

ともだちにシェアしよう!