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第48話 部長へのカミングアウト
「……で、結局言えなかったんだ。ごめんなさい。田渕先生にあんなにがっくり肩を落とされちゃったら……」
黒崎は、沢井が用意してくれた朝ごはんをほおばりながら、田渕との会話を伝えた。
沢井は笑って、言った。
「田渕先生にはオレがはっきり言うから、雅文は心配しなくていいよ」
「えー……、でも、相手がオレだって分かったら、絶対猛反対されるよ、田渕先生に。そんなことになったら、オレちょっと落ち込んじゃうかも……」
「クールでなにごとにも動じない、ポーカーフェイスの黒崎先生がなに弱気になってるんだよ?」
沢井はからかうように言ってくる。
「だって、オレと和浩さんのこと知ったら、田渕先生、前以上に三月先生との復縁を和浩さんに迫ってきそうで……」
不安げに呟く黒崎の頭を、沢井は優しくポンポンとたたいた。
「だから、そんなこと不安に思わないでいいから。……それより、オレのほうは松田部長にちゃんと話しといたよ」
「えっ……」
思わず箸が止まる黒崎。
「そ、それで、部長はなんて?」
「うん。『ああ、そうだったんですか』って。あんまり冷静なんで、『もしかして、ご存じだったんですか?』って聞いたら、『恋人関係にあるとはさすがに思っていませんでしたが、先輩医師と後輩医師以上の絆があるとは感じていました』だってさ。観察眼が鋭いなーって思ったよ」
「……注意とかされた?」
戦々恐々として聞く黒崎に、沢井はおかしそうに笑う。
「そんなものされないよ。逆に、『黒崎先生の雰囲気が以前よりも柔らかい感じになったのは、沢井先生のおかげだったんですね』なんて、言われたよ」
「そうなんだ……」
和浩さんと愛し合うようになってから、自分の中に絶対的な安心感や幸せが芽生えて、それが部長の言うところの雰囲気が柔らかくなった、ということに繋がっているのかな……。
黒崎はくすぐったい気持ちで、微笑んだ。
夜勤で徹夜明けの黒崎は食事のあとシャワーを浴び、寝室で眠りについた。
黒崎が眠っているあいだ、沢井はリビングのソファに座り、自分と黒崎、二人の勤務表を見比べながら、なにかを考え込んでいた。
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