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第49話 旅行への誘い
「新婚旅行!?」
黒崎は珍しく頓狂な声を出してしまった。
隣にいる沢井が、驚く恋人の様子を見て、楽しそうにうなずく。
「ああ」
――その日、仕事のシフトが重なった二人は、仲良く肩を並べて、自宅マンションへの道を辿っていた。
そして人通りの少ない道に入った途端、沢井が口にしたのだ。
「新婚旅行へ行かないか」、と。
「で、でも和浩さん、そんな旅行言ってる時間なんて……」
二人はともに外科医としてとても多忙な日々を送っている。だが、沢井は得意そうに言ってのけた。
「来月末の月火水、オレとおまえの休暇願いを出しといたんだ。それで、無事にとれたからさ。雅文、どこか行きたいとこあるか? 山とか海とか」
「…………」
いつの間に休暇願いなんて、和浩さん。
黒崎は呆気にとられてしまって、言葉が出てこない。
沢井のほうは上機嫌で話を続けてくる。
「二人揃って三日間休みとれば、オレたちの関係に気づくやつも出てくるだろうけど、それはそれでいいし、なによりも、オレおまえと一緒に旅行へ行きたいんだ」
「え……、で、でも……あの……」
突然の話に黒崎が困惑していると、沢井は表情を曇らせた。
「雅文、乗り気じゃなさそうだな。旅行、勝手に決めてしまって迷惑だったかな……?」
そう言って、黙り込んでしまった。
黒崎はこっそり沢井の横顔を盗み見る。
彼はなんとも寂しそうな顔をしていて、切なくなった。
黒崎は周りを見渡し、人影がないのを確かめると、自分の手をそっと沢井の手に絡ませた。
「……迷惑なんかじゃないよ。ただちょっと戸惑っちゃっただけ。だってオレ、旅行なんて小学校の修学旅行以来だもん。……うれしい」
黒崎の小さな告白に、沢井は繋いだ手に力を込めて、微笑んでくれた。
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