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第50話 旅行への誘い②
マンションへ帰り着き、バスルームで一回、寝室のベッドで二回、濃密に愛し合ったあと、黒崎は沢井の腕に、小さな頭を乗せた。
セックスは勿論のことだが、行為が終わったあと、沢井の胸に甘えておしゃべりをするのもまた、黒崎にとってはずごく幸せな時間だ。
「ね、和浩さんは旅行の行き先、どこがいいと思ってるの?」
帰り道で聞かされたときは、戸惑いが先に立ってしまったが、今は沢井との新婚旅行がうれしくてたまらなくなっていた。
「そうだな……、M海岸なんかいいんじゃないかなって思う。あそこならサファリパークも水族館も遊園地も、温泉もあるし。思いきり楽しめそうだろ? ……ちょっと子供っぽすぎるか?」
照れたように笑う沢井に、黒崎はかぶりを振って瞳を輝かせた。
「水族館以外は行ったことない。すごく楽しそう」
「え? おまえ遊園地も行ったことないのか? 子供の頃も?」
「うん。オレの両親は、そういうところへ連れて行ってくれるような人たちじゃなかったから」
「そうか……」
「やだな、そんな顔しないでよ。オレは生まれて初めての遊園地に、和浩さんと一緒に行けるのが、とってもうれしいんだから」
「雅文……」
沢井が黒崎の額にキスをくれた。
「……そういえばおまえ、さっき、旅行は小学校の修学旅行以来とか言ってたよな?」
「うん」
「中学でも高校でも、修学旅行はあっただろ? もしかしてそれも親に行くなって言われたのか?」
ほんの少し眉をひそめて聞いてくる沢井に、黒崎は苦笑した。
「ううん。それはオレが望んで参加しなかったんだよ」
「え? どうして?」
「ああいうの苦手なんだよ」
黒崎の答に沢井も苦笑した。
「そうか、おまえ団体行動とか嫌いそうだもんな」
「うん。それに、もうそのときには将来、医者になるって決めてたから、修学旅行へ行くより、図書館で勉強していたかったんだよ」
「なんとも雅文らしいエピソードだな。……じゃそのときの分も今度の新婚旅行で思いきり楽しもうな」
沢井は黒崎の頭を優しく撫でながら、そう囁く。
黒崎は、沢井にだけ見せる無邪気な笑顔で大きくうなずいた。
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