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第51話 反対する者
忙しい仕事の合間の休憩時間、黒崎は屋上へ来ていた。
いつものように手すりにもたれ、空を見上げながら、沢井との新婚旅行のことを考えていた。
行き先はM海岸に決まった。旅館や飛行機の手配は沢井がしてくれるという。
平日なので、多分難なく予約も取れるだろうと彼は笑って言ってくれた。
和浩さんと新婚旅行……楽しみ……。
心がウキウキと華やぐのを実感しながら、黒崎はそっと自分の左手の薬指に触れる。
病院にはしてこれないが、それ以外のときはいつもここに、沢井から贈られた結婚指輪をはめている。
恋人……、同棲……、結婚……、新婚旅行……。
まさか自分がそういったものをすることになるなんて、沢井と出会うまでは、考えもしなかった。
黒崎が幸せに浸っていると、屋上の扉が荒々しく開かれる音がした。
振り返ると、険しい顔をした田渕が、黒崎のほうへ向かって歩いてくるところだった。
黒崎は田渕の強張った表情を見て、彼が自分になにを言いに来たのか、なんとなく察することができた。
田渕は黒崎から一メートルほど離れた場所まで来ると、やにわに口を開いた。
「ついさっき、沢井と話した。黒崎、沢井の相手と言うのは、本当におまえなのか!?」
「……そうです」
黒崎がきっぱりと肯定すると、田渕はあからさまに侮蔑の表情を浮かべた。
「嘆かわしい。まさか沢井が男と恋愛関係にあるなんて……! まったく正気の沙汰じゃない。信じがたいよ。沢井もおまえも」
「…………」
黒崎はあえて罵倒の言葉を受け止めた。田渕にしてみれば、そういう気持ちになっても仕方ないだろう。
「三月にも話を聞いた。あいつも嘆いていたよ、当然だがね。沢井のやつは養育費こそ充分以上に振り込むが、まったく愛奈ちゃんと会おうとしないらしいな。……三月が言ってたが、おまえが沢井に、愛奈ちゃんとは一生会わないで欲しいって、頼んだっていうのは本当なのか!?」
「……はい」
黒崎は、怒りに燃える田渕の目をまっすぐに見つめて、言い切った。
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