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第52話 反対する者②

「おまえには人の心というのがないのか!? 黒崎っ」 「お言葉ですが、田渕先生、オレにはオレの気持ちがあるんです。オレは沢井先生を愛しています。……彼がオレ以外の存在を大切に思うのは、耐えられません。これはオレのエゴだと分かってますが、絶対に譲れません」  黒崎は決して激昂することなく、いつものポーカーフェイスで淡々と、でもきっぱりと言った。  ポーカーフェイスを崩さない黒崎とは対照的に、田渕は声を荒らげ、襟元をつかんで締め上げてきた。 「許さん、オレは絶対に許さんぞ。男と男なんて不自然なことは」  グイグイと締め付けられ、少し息が苦しくなってきた。そのとき。 「雅文!」  沢井の声がしたかと思うと、黒崎の襟元を締め上げていた田渕の手が離れ、呼吸が楽になった。  気が付けば、目の前に沢井の広い背中があった。  彼は黒崎を守るように立っていた。 「田渕先生っ、お願いですから雅文に当たるのだけはやめてください!」  沢井の声は静かだが、激しい怒りを孕んでいることが黒崎には分かる。 「沢井、考え直せ。おまえは黒崎にたぶらかされてるんだ! ああ、確かに綺麗な顔をしているがな、男だ。気持ち悪い」  唾棄するように言う田渕。 「やめてください……! いくらあなたが先輩の立場でも、オレと黒崎のあいだに踏み込む権利はない」 「だが、愛奈ちゃんにまで会わせないとはどういうことだ!? 沢井、おまえ、そんなことまで黒崎の言いなりなのか!? 情けない」 「三月がどんなふうに言ったのかは知りませんが、愛奈と会わないと決めたのはオレ自身です。この際だから、はっきり言いますが、オレは黒崎のこと以外どうでもいいんです。黒崎さえいてくれれば、他には何も、誰も要らない」  沢井はそこでいったん言葉を切ると、黒崎のほうへ振り返った。 「オレはこいつだけが大切なんです」  優しく、愛おしげな瞳で、黒崎を見つめてくる沢井。 「和浩さん……」  思わず黒崎は彼の背中に縋りついた。

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