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第53話 二人でいれるなら
沢井は再び田渕に向かい、言葉を放った。
「三月と愛奈にとっては、確かにオレは最低な男でしょう。それは分かってます。……でも、これ以上オレと黒崎のことをとやかく言うのはやめてください」
「話にならんな……」
田渕は呆れ果てたというように溜息をつき、軽蔑もあらわな視線を沢井と黒崎へ投げつけると、
「沢井、おまえにはがっかりしたよ」
捨て台詞を残して、その場から去って行った。
屋上には二人だけが残された。
沢井は体勢を変え、黒崎を前から抱きしめた。
「ごめんな、雅文。嫌な思いさせたな」
黒崎はかぶりを振ると、微笑んだ。
「ううん。うれしかった……和浩さんの言葉」
「雅文……」
「でも、どうして田渕先生とオレが屋上にいること、分かったの?」
「川上が、すごい怖い顔して屋上へ向かう田渕先生を見かけたって、教えてくれてさ。そのちょっと前におまえとのことを話したばかりだったから、もしかして、って思ってさ」
沢井の答に黒崎は小さく笑った。
「田渕先生には悪いけど、和浩さん、かっこよかった。正義のヒーローって感じで。……でもあの調子じゃ、田渕先生には新婚旅行のお土産、受け取ってもらえなさそうだね」
「松田部長へのお土産の次に高い土産買ってきて、二人揃って田渕先生へ渡しに行こうか?」
苦笑する沢井に、
「それって、嫌がらせだよ……」
黒崎も苦笑を返した。
「……雅文……」
沢井が囁き、キスをしてきた。
「……ん……、和浩さん……だめ、だよ……仕事中……」
「少しだけ……」
爽やかな風が吹き抜ける屋上で、沢井と黒崎は短いキスを交わした……。
どんなに罵られても、軽蔑の目で見られても、平気。
和浩さんがいてくれるなら……、二人、一緒にいれるなら……。
だから、オレだけを見つめて……和浩さん……。
愛してる……。
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