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第54話 新婚旅行
新婚旅行当日、快晴。
沢井と黒崎は早起きをして、自宅マンションを出た。
旅行先のM海岸には飛行機と電車を乗り継いでいく。
飛行機の窓から、地上を見ていた黒崎が不意に呟いた。
「今頃みんな、オレたちが二人揃って休みとったって、気づいてるよね」
「ああ。大騒ぎしてるぞ、川上がきっと」
沢井がそう言うと、黒崎は小さく頭を傾げて言った。
「お土産が大変だね。たくさん買わなきゃならないから」
「一人一人に買う必要はないって。饅頭の大箱でも買って、分けてもらえばいいんだよ」
「そういうものなの?」
「おまえ、どれだけの土産買うつもりだったんだよ?」
「松田部長と外科の医師と看護師と事務の人と、それから麻酔科の部長と医師と、内科の部長と医師と……」
「……予算オーバーするし、荷物がかなりかさばるな」
沢井は苦笑した。
「協調性がないくせに、変なところで義理堅いんだな、雅文」
「……お土産ってそう言うものだと思ってた。確かに全員に買うのは大変そうだね」
他愛のない会話を交わしているうちに、飛行機は空港につき、二人はそのまま電車に乗り換え、目的地へと向かった。
沢井と黒崎はまずサファリパークへと行ったのだが、そこの土産物売り場で、黒崎がいつものポーカーフェイスのまま、ホワイトタイガーのリアルなぬいぐるみに熱い視線を送っていた。
沢井が黒崎にそれをプレゼントすると、
「ありがとう……。 このホワイトタイガー、なんとなく和浩さんに似てるなって思って、ほらかっこいいところが……」
ほんの少し口元をほころばせて彼は言い、沢井は照れてしまった。
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