54 / 69

第54話 新婚旅行

 新婚旅行当日、快晴。  沢井と黒崎は早起きをして、自宅マンションを出た。  旅行先のM海岸には飛行機と電車を乗り継いでいく。  飛行機の窓から、地上を見ていた黒崎が不意に呟いた。 「今頃みんな、オレたちが二人揃って休みとったって、気づいてるよね」 「ああ。大騒ぎしてるぞ、川上がきっと」  沢井がそう言うと、黒崎は小さく頭を傾げて言った。 「お土産が大変だね。たくさん買わなきゃならないから」 「一人一人に買う必要はないって。饅頭の大箱でも買って、分けてもらえばいいんだよ」 「そういうものなの?」 「おまえ、どれだけの土産買うつもりだったんだよ?」 「松田部長と外科の医師と看護師と事務の人と、それから麻酔科の部長と医師と、内科の部長と医師と……」 「……予算オーバーするし、荷物がかなりかさばるな」  沢井は苦笑した。 「協調性がないくせに、変なところで義理堅いんだな、雅文」 「……お土産ってそう言うものだと思ってた。確かに全員に買うのは大変そうだね」  他愛のない会話を交わしているうちに、飛行機は空港につき、二人はそのまま電車に乗り換え、目的地へと向かった。  沢井と黒崎はまずサファリパークへと行ったのだが、そこの土産物売り場で、黒崎がいつものポーカーフェイスのまま、ホワイトタイガーのリアルなぬいぐるみに熱い視線を送っていた。  沢井が黒崎にそれをプレゼントすると、 「ありがとう……。 このホワイトタイガー、なんとなく和浩さんに似てるなって思って、ほらかっこいいところが……」  ほんの少し口元をほころばせて彼は言い、沢井は照れてしまった。    

ともだちにシェアしよう!