55 / 69
第55話 新婚旅行②
平日だったので、どこも空いていた。
沢井と黒崎はサファリパークの次は遊園地に行ったのだが、土日ならおそらく並ばなければいけないようなアトラクションも、待たずに乗ることができた。
遊園地で沢井は、黒崎自身も知らなかった彼の新たな一面を知ることになる。
彼はジェットコースターとか、垂直落下とか、いわゆる絶叫マシーン系が大好きだったのだ。
黒崎は生まれて初めて乗るというジェットコースターを前にして、無表情を装っていたが、沢井には彼の緊張感がヒシヒシと伝わって来ていた。
そして、乗り終わったあと。
黒崎はもう一度乗りたそうな表情をした。
基本的に黒崎は、完全に沢井と二人きりのとき以外は、ポーカーフェイスで大きく表情を動かすことはない。
彼の微妙な表情の変化までをも読み取れるのは、沢井だけだろう。
そのときも、……もう一度乗りたいなんて子供みたいなこと言えないけど、やっぱり楽しかったから、もう一度乗りたいな。……そんな黒崎の内面が沢井には分かった。
遊園地を二人だけの貸切にしたら、満面の笑みで乗りたいってねだるのだろうか。……いや、乗り物を動かす第三者がいるから、無理か。
そんな実現不可能なことを考えながら、
「もう一度乗るか?」
と聞くと、彼はかすかに口元をほころばせてうなずいた。
結局、遊園地中の絶叫マシーンに二回ずつ乗る羽目になった。
……実を言うと、沢井は絶叫マシーンが苦手だ。
だが、黒崎が楽しそうに――はたから見ればポーカーフェイスにしか見えないだろうが――口元をほころばせるのを見るのが、うれしくて、顔を強張らせながらも付き合った。
そして最後に観覧車に乗った。
観覧車が一番高いところへ来たとき、ちょうど海へ沈みゆく夕日が見えて……。
その美しさに二人はしばし見惚れて、やがてどちらからともなく口づけを交わした。
ともだちにシェアしよう!