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第55話 新婚旅行②

 平日だったので、どこも空いていた。  沢井と黒崎はサファリパークの次は遊園地に行ったのだが、土日ならおそらく並ばなければいけないようなアトラクションも、待たずに乗ることができた。  遊園地で沢井は、黒崎自身も知らなかった彼の新たな一面を知ることになる。  彼はジェットコースターとか、垂直落下とか、いわゆる絶叫マシーン系が大好きだったのだ。  黒崎は生まれて初めて乗るというジェットコースターを前にして、無表情を装っていたが、沢井には彼の緊張感がヒシヒシと伝わって来ていた。  そして、乗り終わったあと。  黒崎はもう一度乗りたそうな表情をした。  基本的に黒崎は、完全に沢井と二人きりのとき以外は、ポーカーフェイスで大きく表情を動かすことはない。  彼の微妙な表情の変化までをも読み取れるのは、沢井だけだろう。  そのときも、……もう一度乗りたいなんて子供みたいなこと言えないけど、やっぱり楽しかったから、もう一度乗りたいな。……そんな黒崎の内面が沢井には分かった。  遊園地を二人だけの貸切にしたら、満面の笑みで乗りたいってねだるのだろうか。……いや、乗り物を動かす第三者がいるから、無理か。  そんな実現不可能なことを考えながら、 「もう一度乗るか?」  と聞くと、彼はかすかに口元をほころばせてうなずいた。  結局、遊園地中の絶叫マシーンに二回ずつ乗る羽目になった。  ……実を言うと、沢井は絶叫マシーンが苦手だ。  だが、黒崎が楽しそうに――はたから見ればポーカーフェイスにしか見えないだろうが――口元をほころばせるのを見るのが、うれしくて、顔を強張らせながらも付き合った。  そして最後に観覧車に乗った。  観覧車が一番高いところへ来たとき、ちょうど海へ沈みゆく夕日が見えて……。  その美しさに二人はしばし見惚れて、やがてどちらからともなく口づけを交わした。

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